Tauchi Sakura*Art

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン出身。絵画・イラストレーションに関するブログ。前頭葉に幸あれ。

細密展

自分の絵として、ただ単に細密であったりただ単に緻密であったりするものに意味はないと思っている。そこをこえるものがある何かを描けるかどうか。手が重い瞬間が続いたのであまり日がない会期までできることをやるしかないけど。できるだけ余計な力を抜いて、どんなカテゴリーからもこぼれ落ちるような風景を描きたい。運が良かったらどっかで飛べるかもしれない。
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7月展示。それからほんやら洞のこと

大学の頃のゼミの課題。自由にイラストレーションを配した絵本を作る、というもので、デザイン科に居ながら絵を描けることに喜んだ私は、初めてボールペンを使って白黒の絵を描きはじめた。
テーマは都会の人間と自然物の生命力の対比。その1ページにその頃通いはじめた国分寺ほんやら洞の風景と、店主の中山ラビさんを登場させた。
一応のコンセプトがあったものの、テーマがどうこうでなくただ単に描きたい気持ちが勝っていたと思う。
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ついこのあいだ、お店にしばらく休みます、と貼り紙があったのを見た。その翌日、ラビさんが亡くなったことを知らされた。この絵を思い出し、汚れを消してみた。絵のよしあしより、やっぱりこれを描きたくなるような風景と人がそこにあったことを忘れないでいようと思った。


今月に仕上げる予定を立てた新作が進まないところに訃報もあり、さらに複雑な気持ちになってしまった。そんな7月が来てしまった。当たり前だけど時間は停止しないなあと思っている。停止しない時間の中を生きてくしかないんだなあと。

今月の展示は28日からギャラリー·アートコンプレックスセンターで行われる大細密展に参加します。
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神保町

大学4年。一人で神保町によくいた。ディスクユニオンとジャニスでCDを手にいれ、三省堂と書線グランデと古本屋を周り、数百円の本を買う。穂高、ミロ、古瀬戸に座り本と持ってきたイラストボードを同時に眺め、煙草を吸って絵を描く。アパートでは絵を描けず、まず出ていってそういうところに座らなければ絵を描けないぐらい寂しかったのだと思う。よって私は卒制の絵30枚の構想を全部神保町の喫茶店でやっていた。明大の学生が楽しそうに喋っているのが耳に入ってくる。
穂高では窓から線路と川を眺めていた。人によっては何か考えているように見えたに違いないが、何を考えていたのかは全く思い出せない。とにかく何も考えずとも川はいつもとても美しかった。あの頃買った本は大体売ったし、ラテン語の辞書も大して役に立たなかった。そのうち真っ暗になってきて、駅前のプラザでドラッグコスメを見て、マスカラとアイシャドウを塗り直し、精いっぱい背筋を伸ばして電車に乗る。背筋を伸ばすことにきっとあの頃気力の8割を使っていただろう。

あんまりにも濃縮された一人がただ在る。のちに彼氏や友達とたまに来ることはあっても、私にとって神保町は基本的にそういう街だった。

で、そんな神保町で、穂高や古瀬戸と並んで好きだったものの一つがすずらん通りの文房堂です。
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搬入してきました。
タイムリープを防げ。

Tシャツ発売開始と今月開催展示です

31日発売のアートブック「ENERGY2021」掲載作品の展示↓
5月24~ 神田神保町文房堂ギャラリー
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5月24~Tシャツweb販売
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販売サイト
https://t-od.jp/special/detail?pr_id=181

招待展示 5月18日~京都東山ギャラリーソラト「幻想医学展」↓
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「ごく内的な飛行」一点展示しています。
飛ぶ脳と金の雨。f:id:sakura1943:20210520163546j:plain
前回展示時よりも彩度を上げ、アクリル絵の具を重ねてグロススプレーで表面保護しています。容易には発色の損なわれない仕上がりになっています。お近くの方はぜひ近くに寄って光る視線と全体の表情をごらんになってみてください。

ギャラリーソラト

〒605-0021 京都府京都市東山区石泉院町394 戸川ビル 2F カオスの間内
090-9698-9460 https://g.co/kgs/fUHEgJ

5月予定展示、生きる花

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額装して仕舞われていた「百合」ですが、時間をみつけては再度手直しを始めました。蘇生させたい。百合は桜や梅ともまた違う優しさと凛とした姿が好き。こちらの参加展示は考え中です。花シリーズは「うめ」「さくら」「りんどう」「百合」と描きましたが、うち3枚は手元を離れたのでこの子が今最後の一枚です。

メタル紙を水張りして描きはじめた新作の方は難航しそう。忙しくしてたら4月になってしまった。肩の力ぬきながらいきます。

神田神保町文房堂ギャラリーカフェ「SELECTED ILLUSTRATION ENERGY2021」5月24日~
※アートブックに掲載された作品の原画展示販売となります。
☆京都東山ギャラリーソラト「幻想医学展」5月18日~23日
※招待出展となります。一点展示します。

3月25日フランケンシュタインの誘惑

5回続いていたフランケンシュタインの誘惑3月回、「愛と絶望の心理学」が夜9時から放送になります。
https://www.nhk.jp/p/ts/11Q1LRN1R3/episode/te/YMJW87Q9L2/
やっていて内容的には一番しんどかったかもしれません。このフランケンシュタインも、紙に向かってひたすら内面世界を表現している中である時ふとお仕事をいただき、新しい世界を垣間見れたこともありスタート時からキャッキャして楽しく絵を描いてたもんですが、今期は色々と考えさせられました。その分大事な回だったかも。モンスターマザーはじめとする実験器具、それだけ取っても結構つらかった。ハーロウが酒浸りでうつ病になってまで研究をしていたことも、結構つらかった。
幼少期の孤独感を感じるカット
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様々な気持ちが湧きましたが、ある程度機械的かつ説明的に、時間制限ありきでイラストを上げていかなくならない。でもやはり描かれる対象物=(今回は動物実験の猿やネズミ)には感情があり表情があります。でもそれを記号的に描かないと素材として成り立たない。ふだんは絵画をやる身として、こんな場合の制作の喜びとはなんだろう…なんなんだろう…とも思いました。

※でもネットを見たらいい感じのカットに仕上げていただいたのがちらっとみえて、やっぱり「嬉しい」という気持ちが一番に湧いてしまいました。そして結局その気持ちには勝てません。ふしぎなもので。

(いったんシリーズ一区切りとなるので今まで描いてきて素敵に仕上げてもらって印象深かったものを振り返りました。よかったなあー。何回見てもいいです。)
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(まだいっぱいあるけど何回見ても我ながら飽きないのです)

愛は心理学で解明できるのかという今回のテーマですが、一つの問いに対する答えを求めるために何かを犠牲にしてしまうことはキツい。
成果を上げていようがどこかに犠牲を払っていること。ただ、それを手放しで非難できるかといえば…どうだろう。
私自身、偉業を成し遂げた人間でもなんでもないし、科学者のことは理解できない。動物実験。最悪。お前の鬱。知るかよ。画期的な実験方法と概要。知るかよ。だけどそれでさえ、上記のように、心が傷んだくせに「描いてよかった」「知ってほしい、見てほしい」と最終的に感じてしまいます。その心の動き一つとっても、完全に他人事として非難はできないのかもしれません。
だし、それまで愛が動物にはないとされていた通説を考えれば、覆して愛という形のないものを立証したことは意味があるのかも。


ぜひたくさんの方に見ていただきたい。

Energy 2021

アートブック事務局より5月出版されるアートアンソロジーブック、エネルギーをテーマにした「energy」に1ページ掲載されます。
光と電気、現実と虚像、生命をテーマに描きました。Amazon他全国書店での取り扱いとなります。
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色々な作家の作品がオールカラーで見られるアートブックです。
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は前回掲載号。前回はちょうど倒れた直後に描いてたなあ。リハビリで。そしてエネルギーを描くのに自分のエネルギーがいったんゼロになったのを持ち直すのにそこそこ気合いを必要としました。

今回は描写にペンのみを使っています。

モチーフとなったリラダンの「未來のイヴ」は美しい外見と裏腹に中身のない俗な魂を持った女性アリシアに悩む青年のため電気技師エディソンがアリシアの姿を借りた人造人間「ハダリー」を制作する話。ハダリーは人造人間でありながら人間を越えた不可思議な霊魂を持ったものとして描かれます。
俗と非俗、肉体と精神、外見と内面など様々な二面性のテーマを持ったとても魅力的な小説です。文体はクラシックで、形容詞が宝石のようです。

原画は別で展示の機会に。